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【第94回選手権大会直前レポート】健大高崎・機動破壊の秘密とは|田尻賢誉

Posted By 編集部 On 2012/07/06 @ 12:23 PM In トップニュース,特集企画 | 1 Comment



ベースは右足で踏む。 踏んだ足のつま先でベースをセカンド方向へ蹴る 踏んでから加速するイメージ 頭(首)だけ傾くのは×、骨盤を意識して身体が一直線になるように。

7、4、5。

『機動破壊』をテーマに臨んだセンバツで、健大高崎が初戦から記録した盗塁の数だ。3試合で16盗塁。まさに足でベスト4入りを果たした。

この他、初戦の天理戦の7回無死一塁の場面で秋山浩佑の左中間安打で一塁走者の小林良太郎が一気に生還するなど、随所に好走塁を見せた。

センバツ後に行われた関東大会でも、東海大甲府戦で9回2死満塁から二塁走者の中山奎太が大きくリードを取ってけん制を誘い、挟まれる間に三塁走者の竹内司がホームイン。さらにショートの悪送球まで誘って逆転に成功した。

埼玉栄戦では、アウトにはなったものの、3回2死三塁の場面で四球を選んだ打者走者がノンストップで一塁を回って二塁を狙う間に三塁走者が突っ込むという走塁も見せた。

今や、走塁といえば健大高崎。全国どこへ行っても「健大高崎ってどうですか?」と聞かれる。その機動力の秘密を走塁を指導する葛原毅コーチに語ってもらった。

昨夏は群馬大会記録となる28盗塁を記録して甲子園初出場。初戦の今治西戦で2ランスクイズを決めて話題となったが、実は、それ以前の健大高崎に足を使うイメージはなかった。転機は2010年夏の準決勝・前橋工戦。準々決勝までの4試合で32得点の打線が延長11回で1点も取れず、0対1で敗れたのだ。

「あの大会は(高校通算56本塁打の四番)森山が20打数1安打と完璧に抑えられたんです。さらに完封負けして思うところがありました。私自身、もともと走塁に興味があり、Bチームで試していたんですが、(Aチームの試合では)打てる子の前はバント中心にして任せるという感じがありました。あの完封負けをきっかけに、新チーム(11年のチーム)は足の速い子がたくさんいるし、もってこいの代だということでやり始めました」

群馬県は5月に若駒杯と呼ばれる1年生大会がある。その監督を務めるのが葛原コーチだ。毎年、1年生が入学すると、若駒杯に入るまでに徹底して走塁の基本を教え込む。

「まずは二盗、三盗ですね。中学生はどこでアウトになるのかがわかっていない。(リードをしても)楽勝で帰塁するんですよね。けん制死をしてよっぽど指導されたんじゃないかと思うぐらい。まずはどこまで行けるのか。出ようよというところから始めます」

リード幅は具体的に何メートルなどと決まっていないが、葛原コーチがチェックし、“そこ”とOKを出すラインまで出る。人工芝球場で一番の竹内なら、アンツーカーから両足が出るぐらいの大きさだ。他の選手も片足が出るぐらいまでリードを取る。

実際にリードを取って見せる一番打者の竹内

「できれば同じだけ出てほしいですよね。足の遅い子は盗塁はできないですけど、離塁はちょっと大きめにしたり、偽装スタートを一生懸命やったり、走塁はしっかりしてほしい。(盗塁で)行かないからこそ行くように見せてほしいので、リードの大きさはあまり妥協させないようにはしています」

1年生大会では右投手、左投手関係なく、「投手が動いた瞬間にスタートを切れ」というサインを作り、盗塁する勇気をつけさせる。

「『それでけん制が来たら、オレが悪いんだから』と言っています。最初だけはベンチが責任を持つようにしていますね」

あとはとにかく経験を積むこと。リードをできるだけ大きく取って、けん制をもらう。目指すのは1人3球。1球でも多くもらうのが目標だ。

「大事にしているのは心理面ですかね。けん制はすればするほど次にする確率は低くなっていく。1回はする確率が高いと思いますが、1回すれば10パーセントぐらい減るだろうし、2回すれば30パーセントぐらい減る。3回すればほとんどなくなる。そうやっていくと読みが働くようになるんです。たくさん走るうちに生徒がそういうことを学習するようになった。それがいいスタートにつながっているのは間違いないですね」

二盗だけではない。むしろ三盗の方がチャンスがあると考え、積極的にトライさせる。

「二塁ランナーを見ながらクイックはなかなか少ないですから。それに、ピッチャーはミットを見ないと心配なので、(二塁走者から)目を切ってからミットを必ず見る。(目を切ってから投球動作に入るまでの)0・5秒をうまく使いたいんです。だから、目を切った瞬間に行きなさいと言っています。そう言っても、最初は行けないんですよね。ピッチャーが(投球モーションとして)動かないと心配で。ピッチャーはそれがリズムだから、首をホームに向けたところから投球は始まってるんです。その時点でショートが『(ランナーが)動いた』と言ってもボークになるから大丈夫だと」

健大の走者の基本姿勢

昨秋の関東大会の千葉英和戦では、右投手だが走者が二塁に行くと大きく足を上げて投げる相手投手のスキを突いて投手の三木敬太が三盗。捕手の悪送球も誘って得点を挙げた。

この他、二盗、三盗ともに共通するのがデータの活用。相手のカウント別の配球データから変化球の来るカウントを予測して走る。投手のクイックタイム、捕手の二塁送球タイム、投手のセットの長さはベンチ入りしている記録員がストップウオッチで計測。ベンチで情報を共有している。

そして、見逃せないのが健大高崎の走者の構えだ。通常は右足か左足のどちらかに体重をかけることが多いが、健大高崎では左右ともに50:50の重心にこだわっている。

「どうしても(走りたいという)心理がはたらくので雰囲気が出ちゃうんですよ。それをなくしたいのと、一歩目が早くなるようなスタートにこだわった結果、今のかたちになりました。太ももを半分に割ったとして、内側だけを意識する。太ももからつま先まで内側を意識します。姿勢は猫背にならず、背筋を伸ばす。股関節をはめて、スクワットに近いかたちで構えます」

構えだけではない。スタートの切り方にもこだわる。

「右ひざから抜いてスタートします。その際に頭の位置が上がらないように。その逆で頭が落ちないように。右足を引かないように注意します」

リードを大きく取り、けん制を投げさせ、データを活用したうえでスタートを切る。走者の構えからこだわり、いかに一歩目を早くするか。さらに、1年生時からスタートを切る勇気を育て、思い切りよく走る。これだけの条件が揃っているからこそ、足の速さに関係なく、どの選手でも盗塁ができるのだ。


健大盗塁のスタート。右ひざから抜く。

冷静に見ると、センバツは7盗塁した天理戦は捕手・山岸大起の二塁送球が2・38~2・50秒、鳴門の日下大輝が2・18~2・35秒。盗塁するのは難しくないレベルだった。

神村学園の中野大介だけは1・96~2・08秒だったが、左投手の平藪樹一郎のけん制パターンやスライダーがワンバウンドになることを突いて4盗塁を記録した。走れるときに稼ぎ、その数字のインパクトをうまく利用する。

走るイメージができた現在は、相手が勝手に警戒して墓穴を掘ることも珍しくない。まさに“イメージ戦略”だ。

もちろん、こだわりは盗塁だけではない。

昨夏の横浜戦では9回2死二塁で長坂拳弥がレフト前安打で本塁を突くがタッチアウト。カウント3-2でストライク・ゴーができる状況だったが、インパクトから本塁ベースまで6秒95かかった。10回裏、横浜にレフト前安打で二塁から生還されサヨナラ負け。この失敗を活かした。

「横浜戦の後、秋から冬にかけてストライク・ゴーはかなりやりました。去年のチームは足が速かった。今年は速くない。一、二番だけです。だから去年は盗塁、今年は走塁と言ってきました」

この他にも、センバツでは投手の投球がワンバウンドの軌道と判断した時点でスタートする軌道スタートをたびたび成功させた。冒頭で紹介した天理戦の好走塁も練習の賜物だ。

「甲子園は右中間、左中間が広いですから、(外野手が)カットマンに返して、そのまま走って持ってきたときは、ホームが狙い目だと言っていました」

一塁から長躯ホームインした小林の足は「はっきりいって遅い」(葛原コーチ)。足の速さではない。まさに意識と日々の練習の積み重ねがもたらした好走塁だった。神村学園戦で見せた1死三塁からの振り逃げで捕手の送球と同時に三塁走者がホームを狙う走塁や鳴門戦で見せた1死一、三塁から一塁走者が外野フライで二塁を狙う走塁、関東大会で見せたトリッキーな走塁も練習試合では珍しくないプレーだ。

とにかく走る意識が徹底されている。機動力を完全に自分たちの個性にしている。個性があるからイメージが作られ、イメージがあるから戦う前に一段上の立場に立てる。打てないときにも足は打開策になるため、かつてのように打てなくてお手上げという試合はない。

課題を挙げるなら、足を封じられたときだ。昨夏の横浜戦、今春の大阪桐蔭戦と甲子園で敗れた試合はいずれも盗塁ゼロに終わった。横浜は近藤健介(日本ハム)、大阪桐蔭は来年のドラフト候補といわれる森友哉で、ともに二塁送球は2秒を切る強肩。盗塁は容易ではないが、足が持ち味である以上、それでもしかけなければいけない。

「いくらキャッチャーがよくても、やっぱり、行かなきゃダメですよね。プロのキャッチャーでも、盗塁阻止率はよくても5割に満たない。2回行けば1回は成功するんですよね。1回失敗してしまったことで、足を止めてしまったことが敗因。失敗しても行かなきゃダメなんですよ」

センバツ後は葛原コーチが部長としてベンチ入りするようになった。今後は、試合中でも走塁面の実践的なアドバイスを与えることができる。関東大会で見せたような“あっと驚く”走塁もいくつか準備はできている。まだまだ足で何か見せてくれそうだ。

「ウチは日大三高でも智弁和歌山でもない。いくら打撃に力を入れても、行かなきゃダメなんです。行かなきゃリズムを作れない。行かなければ始まらない。そこにはある意味、ポリシーとプライドを持ってやっていきたいと思います」

この夏、まずは群馬大会記録の30盗塁を目指してスタートする。ライバル各校はけん制やクイックを練習して健大高崎対策を練っているが、失敗は恐れない。リスクを背負うからこそ得られるものがあるとわかっているからだ。

警戒されるからこそチャレンジする――。

『機動破壊』の第2章が幕を開ける。

筆者:田尻賢誉
1975年神戸生まれ。熊谷高校~学習院大学卒業後、ラジオ日本勤務を経て独立。スポーツライターとして高校野球、プロ野球、メジャーリーグなど幅広く取材執筆活動を行っている。著書に愛工大名電高・柴田章吾投手をテーマにした「あきらめない限り夢は続く」(講談社刊)など多数。

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